はじめに:「食」と「農業」は、地球の未来を決める鍵
地球の資源が有限であることを意識する機会はどれくらいあるでしょうか?
スーパーに並ぶ食材、飲食店で楽しむ料理、食べきれずに捨てられる食品。これらの一つひとつが、地球環境にどのような影響を与えているか、考えたことはありますか?
「食と農業」の世界を持続可能なものにするには、生産(農業)から消費(飲食)までの流れを一つのシステム(フードシステム)として捉え、フードロスや労働環境、生物多様性など多面的な視点で未来を考える必要があります。
そこで重要な概念となるのが、「プラネタリーバウンダリー(地球の限界)」です。これは、地球環境を持続可能に保つために、人類が守るべき9つの境界線を示したもの。食と農業は、この限界を超えないための重要な領域として、大きな影響を与えています。
本記事では、プラネタリーバウンダリーとは何か、その中でも「食と農業」に関連するポイント、そして私たちができることについて考えていきます。
プラネタリーバウンダリーとは?
プラネタリーバウンダリーは、2009年にスウェーデンのストックホルム・レジリエンス・センターの研究チームが提唱した概念で、地球環境の持続可能な範囲を9つの指標で示しています。そのうち、すでに気候変動、土地利用の変化、生物多様性の喪失、窒素・リン循環などが限界を超えているとされています。
食と農業が影響する主な4つの領域
気候変動
農業と食品生産は、温室効果ガスの約3割を占める。特に畜産業はメタンガス排出の主要要因。
土地利用の変化
森林伐採や農地拡大による生態系の破壊が進行。持続可能な農法の導入が求められる。
生物多様性の喪失
単一栽培(モノカルチャー)や農薬使用が、生態系バランスを崩し、受粉を担う昆虫の減少を招いている。
窒素・リン循環の破壊
肥料に含まれる窒素やリンが過剰に使用されると、水質汚染や生態系破壊の原因となる。
このように、「食と農業」は、地球環境を持続可能に保つ上で、非常に大きな影響を持つ分野なのです。
では、どうすれば「食と農業」の未来を守れるのか?
食と農業は、生産者、輸送業者、加工業者、販売業者、そして私たち消費者まで、多くの人が関わる仕組みです。それぞれの立場でできることを意識し、実践していくことが大切です。
お互いが連携しながら、フードロスを減らしたり、環境への負荷を少なくしたり、エシカルな調達や消費を進めることで、未来の食と農業を守ることにつながります。具体的にどのような取り組みができるのか、以下に紹介していきますので、ぜひチェックしてみてください。
1. 食の生産から消費までを一気通貫で考える
- 地域の農産物を地元の飲食店が活用し、フードマイレージを削減する。
地域で生産された食材を地元で消費することで、輸送による二酸化炭素排出を削減し、地元経済の活性化にも貢献します。 - 低環境負荷な農業(有機農業、アグロフォレストリー)を推進する。
化学肥料や農薬の使用を抑えた有機農業や、森林と農業を融合させるアグロフォレストリーなど、自然と共生する農法を導入することが重要です。 - 適正な労働環境を整え、農業の担い手を増やす。
収益性の向上や労働環境の改善を進めることで、農業に従事する人々の働きやすさを高め、持続可能な生産体制を築くことができます。
2. フードロスを削減し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を促進する
- 規格外野菜の活用や、食品ロス削減アプリの利用を拡大する。
形が不揃いでも味や栄養価に問題のない食材を活用し、食品ロスを削減する取り組みを広げます。 - レストランでの残食削減や、賞味期限管理の工夫を行う。
適切なポーションサイズの提供や賞味期限の明確化により、飲食店や家庭での食品ロスを最小限に抑えることができます。 - 食品廃棄物を堆肥化し、農業に還元する循環型の取り組みを進める。
廃棄される食品を堆肥にし、農業へ再利用することで、持続可能な資源循環を実現します。
3. 「地球の限界」を知り、行動を変える
- 自分が消費する食品の背景を知り、環境負荷の低いものを選ぶ。
生産過程での環境負荷を考慮し、エシカル消費を心がけることが重要です。 - 生産者と直接つながる仕組み(CSA:地域支援型農業、産直EC)を活用する。
生産者から直接購入することで、食品の透明性を高め、地元経済を支援することができます。 - 持続可能な食の選択を支援する企業やサービスを応援する。
環境負荷の低い食材や製品を扱う企業を選び、消費者としての影響力を活かして持続可能な食文化を支えます。
まとめ:食と農業の未来を共に創る
プラネタリーバウンダリーは、決して「絶望」の話ではありません。限界を知ることは、前進する第一歩です。
飲食と農業を一体的に捉え、多様な視点から「食」の未来を考えること。それは、持続可能な社会を創るだけでなく、地域経済やビジネスの新たな可能性を生み出すことにもつながります。あなたも、自分のライフワークやビジネスに活かせるヒントを見つけてみませんか?
次回は、より私たちに身近な話題の「健康」という切り口で、食と農業の持続可能な未来についてさらに深掘りしていきます。

名古屋大学大学院修了後、外資系電機メーカーでグローバル営業に従事し、アジア・アフリカでの日系企業の進出支援に従事。現在は合同会社エネスフィア代表および株式会社BrightのCSOとして、SDGsビジネスマスターや脱炭素アドバイザーなどの資格を活かし100社以上の中小企業支援に実績。さらに、BSIジャパン認定アソシエイト・コンサルタントおよびB Corp認証取得支援コンサルタントとしても活躍中。