はじめに:気候変動は「環境問題」だけではない
「気候変動」と聞くと、海面上昇や異常気象、森林火災などの環境への影響を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、気候変動は私たちの「健康」にも深刻な影響を及ぼしていることをご存じでしょうか?
- 猛暑日が増え、熱中症のリスクが高まる
- 大気汚染が進み、呼吸器疾患や心血管系の病気が増加する
- 食糧不足が深刻化し、栄養不足や食の安全性が脅かされる
これらはすべて、私たちの生活に直接的な影響を与えています。
こうした背景のもとで注目されているのが、「プラネタリーヘルス(Planetary Health)」という概念です。これは、「人類文明の健康と、それが依拠している自然システムが両立する状態」を指します。つまり、地球環境が健全でなければ、私たちの健康も守れないという視点です。
引用:プラネタリーヘルス~人と地球の健康の両立~(2023年)/国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)に一部加筆
本記事では、気候変動が私たちの健康にどのような影響を及ぼすのか、そしてプラネタリーヘルスの視点からどのような解決策が考えられるのかを掘り下げていきます。
気候変動がもたらす健康リスク
気候変動は、さまざまな形で私たちの健康に影響を及ぼしています。特に以下の3つの視点からその影響を整理できます。
① 極端気象による健康リスク
- 猛暑、豪雨、干ばつ、異常気象が頻発することで、熱中症や感染症のリスクが高まります。
- 例えば、2023年の日本では記録的な猛暑が続き、熱中症による救急搬送者が急増しました。
- また、ハリケーンや洪水の増加によって、感染症の流行や精神的ストレスが深刻化しています。
② 大気汚染と呼吸器疾患
- 気候変動によって大気汚染が悪化し、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心血管疾患のリスクが高まっています。
- 特に都市部では自動車や工場から排出される温室効果ガスとともに、PM2.5などの有害物質が呼吸器系に悪影響を及ぼしています。
③ 食糧供給の変化と栄養不良
- 気候変動が農業に与える影響は深刻で、干ばつや異常気象が食糧供給を不安定にしています。
- 例えば、小麦や米の収穫量の減少、漁業資源の枯渇が進むことで、食の安全保障が脅かされています。
- また、畜産業の環境負荷が高まるなか、持続可能な食生活への移行が急務となっています。
プラネタリーヘルスが示す解決策
では、こうした健康リスクに対して、どのような対策が求められるのでしょうか?
近年、国際社会でも気候変動と健康に関する議論が活発になっています。
✔ COP28「気候と健康宣言」(2023年)
COP28(国連気候変動会議)では、「気候変動と健康」が初めて正式な議題となり、健康被害を抑えるための国際協力の必要性が強調されました。
✔ 日本の「保健医療分野における気候変動国家戦略」(2024年6月)
日本でも、医療システムの脱炭素化や気候変動に対応した医療体制の強化が進められています。例えば、医療機関での再生可能エネルギーの導入や、熱中症対策の強化が掲げられています。
また、ライフサイエンスの発展に加え、AI(人工知能)やデジタル技術、人文社会学を活用した分野横断的な取り組みが不可欠です。
具体的な3つのアプローチ
1. 持続可能な食と農業の推進
- 地産地消の促進:地域の農産物を活用し、長距離輸送による環境負荷を軽減する。
- 環境に優しい農業の推進:有機農業やアグロフォレストリーの導入を進め、気候変動の影響を抑える。
- フードロスの削減:食品廃棄を減らし、持続可能な食の選択をする。
2. 健康を守る都市づくり
- 緑のインフラの拡大:都市部に緑地や樹木を増やし、ヒートアイランド現象を緩和する。
- クリーンエネルギーへの移行:化石燃料の使用を減らし、大気汚染を抑制する。
- ウォーカブルな街づくり:歩行や自転車移動を促進し、健康的なライフスタイルを支援する。
3. 個人レベルでの意識改革と行動
- 気候変動の影響を知る:自分の健康と地球環境の関係を意識することが重要。
- 持続可能な生活スタイルを選択:環境に優しい製品を選び、エコなライフスタイルを実践。
- コミュニティでの協力:地域での気候変動対策や健康維持の取り組みに参加する。
まとめ:健康のために、地球のためにできること
気候変動は、環境問題であると同時に「健康問題」でもあります。極端気象や大気汚染、食糧危機など、私たちの体にも影響を及ぼすリスクが年々高まっています。
しかし、プラネタリーヘルスの視点を持ち、持続可能な食や都市づくり、日々の生活習慣を見直すことで、未来の健康を守ることができます。
あなたの小さなアクションが、地球と自分自身の健康を守る一歩につながります。

名古屋大学大学院修了後、外資系電機メーカーでグローバル営業に従事し、アジア・アフリカでの日系企業の進出支援に従事。現在は合同会社エネスフィア代表および株式会社BrightのCSOとして、SDGsビジネスマスターや脱炭素アドバイザーなどの資格を活かし100社以上の中小企業支援に実績。さらに、BSIジャパン認定アソシエイト・コンサルタントおよびB Corp認証取得支援コンサルタントとしても活躍中。
コメント