CSRとCSVの違いを知る ~価値を生み出す企業のあり方を考えよう~

はじめに

企業は、社会や環境とどのように関わりながら存在し続けるべきなのでしょうか。近年、CSR(企業の社会的責任)を超え、CSV(共有価値の創造)という概念が注目を集めています。この記事では、CSRとCSVの違いを解説し、CSVを実践する企業事例を交えながら、持続可能なビジネスの可能性を探ります。社会課題を解決しながら利益を追求するCSVのアプローチは、現代の企業に求められる新たな価値創造のヒントとなるでしょう。

これからの企業のあり方とは

企業活動の本質は「社会課題を解決すること」です。ビジネスとは、社会に存在する「不(不便、不安、不満など)」を解消する仕組みであり、これが企業の成り立ちを支えています。

SDGsの目標は、企業がこの役割を果たしつつ持続可能性を追求する指針として活用されています。SDGsが掲げられている国連の文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の67条では、民間企業の活動への期待が記載されており、要約すると次の2点となります。

  • 経営リスクを回避し、地域社会に必要とされる企業であり続けること
  • 社会課題をヒントに、既存事業の拡大や新規事業の創出に挑戦すること

また、SDGsの各目標は、「環境」「社会」「経済」の三重構造で示される「ウェディングケーキモデル」で関係性が分かりやすく説明できます。このモデルによれば、環境が社会、社会が経済の基盤を支えていることが分かると思います。企業は社会と共に成長する存在であるべきなのです。

企業はこの構造を理解し、自社の事業がどの部分に寄与できるのかを考えることが重要です。

引用元:Stockholm Resilience Centre

企業が求められている役割の変化

時代と共に、企業の役割も進化しています。2000年代初頭までは、企業の責任や義務が重視され、慈善活動的な意味合いが強かったと言えます。しかし、2006年にESG投資が登場して以降、環境や社会の問題を解決する企業が成長し、リターンも大きくなる、すなわち企業価値が向上するという考え方にシフトしてきました。

1. 責任と慈善事業の時代

  • 1920年代~:SRI(社会的責任投資)
    倫理の観点から、武器、ギャンブル、タバコなどを扱う企業への投資を控える動きが始まりました。
  • 1990年代~:CSR(企業の社会的責任)
    企業は利益追求だけでなく、社会や環境問題の解決にも責任を負うべきだとされるようになりました。
  • 2000年~:MDGs(ミレニアム開発目標)
    SDGsの前身のMDGsも国連で採択されたものですが、当時はあくまで国際開発の観点からでした。

2. 価値創造の時代

  • 2006年~:ESG(社会/環境/ガバナンス)
    CSRを支援する投資家の行動が広がり、中長期的にリターンを生む企業の特徴として注目されました。
  • 2011年~:CSV(共有価値の創造)
    競争戦略の一環として、社会課題の解決と事業利益の両立を目指すアプローチであるCSVが登場しました。
  • 2015年~:SDGs(持続可能な開発目標)
    国連でSDGsが採択されたことで、企業にとってはCSVの実践を具体化する指針として活用する機運が高まりました。

CSVが企業価値を向上させる

CSRとCSV、そしてSDGsはどのように結びついているのでしょうか。

  • CSR:企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)。社会貢献・ボランティア活動などの文脈で語られることが多く、「コストSDGs」とも位置づけられます。
  • CSV:共通価値の創造(Creating Shared Value)。事業を通じて社会課題を解決するアプローチであり、社会課題の解決を本業で実現するSDGsビジネスとも言えます。言わば「プロフィットSDGs」です。
  • SDGs:持続可能な開発目標。SDGsは、CSVを実践するための具体的な指標として活用することができます。

このように整理することで、少しイメージが付きやすくなったのではないでしょうか。

CSVは、攻めのCSRともいえる概念です。本業を通じて社会課題を解決しながら利益を上げるビジネスモデルとして考えることができるため、企業価値を向上させる重要な要素となります。

SDGsを意識した「サステナビリティ経営」とはSDGsを目標・指標して活用し、CSV(自社の売上と社会貢献を同時に実現)を目指すこと、といえます。

ビジネスとしてサステナビリティに取り組む効果

ビジネスとしてサステナビリティに取り組むことで、企業にとって次の3つの効果が期待されます。

取引先や株主との関係強化

持続可能な調達、ESG投資、気候変動によるビジネスへの影響拡大により、取引リスクが高まっており、中小企業にも環境・人権配慮が必須の時代となっています。ステークホルダーとの関係性が信頼で強化されていくことで次のメリットが考えられます。

  • 原材料確保や販路確保、資金調達が今後も安定して実施できる
  • 新たな取引関係のチャンスが得られる
  • 企業イメージ向上に伴うブランディング強化につながる

組織力・採用力の強化

社会貢献意欲の高い学生・就活生が増え、採用活動にも大きな波がきていることで、社会貢献に取り組む企業は、社員のエンゲージメント向上や優秀な人材の採用に有利な状況が生まれています。

  • 社員全員が共通認識を持ち、誇りを感じる組織の実現
  • 優秀な人材を中心とした多様性溢れるメンバーの獲得

新たな事業機会の創出

社会構造が大きく変わる時代、顧客ニーズの源泉となる社会課題から考えることが大切になってきました。社会課題を起点に新規事業を開拓することで、企業は持続的に成長する道を模索できます。また、補助金や融資などを狙う際にも大きな加点につながります。

  • 市場ルールの変化に伴い、SDGsに関連する成長市場領域に進出できる
  • 自社ならではの新規商品/サービス、事業創出が可能となる

社会課題はビジネスから取り残されている

多くの社会課題は深刻なペインとして認識されてはいるものの、その解消にビジネスとして取り組みづらく、行政やNPOが中心となって支援活動を行っています。

しかし、視点を変えてみてください。社会課題を事業として捉えることは、顧客ニーズを先取りする機会でもあります。企業が社会課題に取り組むことで、新たな成長の可能性が開かれるのです。

現代の企業には、CSVを通じて社会課題を解決し、同時に企業価値を高めるイノベーションの創出が求められています。

CSV企業事例

CSVを実践している企業の事例をいくつかご紹介します。

横河電機株式会社

ものづくり現場の生産管理や制御に強みを持つBtoB企業として、石油、ガス、化学、電力、鉄鋼、紙パルプ、薬品、食品、さらには社会インフラなど、あらゆる産業分野に広がる直接の顧客企業の生産効率を高めることで、社会のサステナビリティ実現を目指している企業です。

(社会価値)

  • 製造メーカーによる省エネ・省資源化
  • 製造現場における安全性向上
  • あらゆる産業活動におけるCO2排出量削減

(経済価値)

  • 化石燃料エネルギー消費削減に貢献する世界の上場企業トップ200社「Carbon Clean 200」として評価
  • グループ売上の順調な増加

このように、顧客企業とともに「経済価値」と「社会価値」を同時に実現しています。

一平ホールディングス

地域の食材をふんだんに取り入れた「九州パンケーキミックス」を中心に、地元を育てるフランチャイズを主に展開。「九州の魅力を世界へ届けたい」というビジョンを掲げ、より魅力的で豊かな地域に育てていくために、食文化で地元に貢献できる企業を目指しています。

(社会価値)

  • 地元生産者の事業安定、拡大
  • 被災地の復興加速
  • 九州エリアの食産業発展

(経済価値)

  • スピード感ある店舗展開(直営1店舗、国内FC2店舗、海外FC3店舗)
  • 九州ブランド化による新規顧客開拓

このように、地元の課題に真正面から向き合い、「経済価値」と「社会価値」を同時に実現しています。

三承工業株式会社

生活の質の向上を支援するローコストの注文住宅建設などを軸にした事業を展開。“女性だけの工務店”『credo-home』の展開を始め、積極的な女性管理職登用や子育てママの採用も行い、岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進企業としても認定されており、建設業で初の「ジャパンSDGs アワード」も2018年に受賞しています。

(社会価値)

  • 女性が活躍できる職場環境(ワーク・ライフ・バランス推進認定企業、えるぼし認定企業)
  • ひとり親家庭や外国籍の方が低価格高品質なマイホームを購入 ※顧客の約3割が外国籍の方

(経済価値)

  • グループ売上が10年で倍増
  • 新規市場開拓(全顧客の約3割が外国籍)
  • 離職率の減少(2012年 53% → 2021年 1.6%)

このように、女性や外国籍の方の悩みに寄り添い、「経済価値」と「社会価値」を同時に実現しています。

まとめ:今こそ視点を変えてイノベーションを起こすべき

CSRからCSV、そしてSDGsへ。企業は、社会課題の解決と利益追求を両立する新たなアプローチを取り入れる必要があります。

社会と共に成長する企業の姿は、私たちの未来を明るく照らす存在になるでしょう。視点を変えた価値創造が、持続可能な成長を支える鍵となります。

あなたの会社でも、社会課題を解決しながらビジネスを成長させる可能性を是非探ってみてください。

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