はじめに
「三方よし」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、江戸時代の近江商人が生み出した商売哲学で、現代のビジネスにも通じる普遍的な価値観です。この哲学をさらに発展させた「六方よし」は、サステナビリティの時代において、企業や個人が持続可能な価値を創造するための重要な枠組みです。
この記事では、「六方よし」のうち「売り手」「買い手」「世間」の3つの視点に焦点を当て、サステナビリティの最新トレンドと実践例を紐解きながら、未来をより良くデザインするためのヒントを探ります。
ビジネスの哲学:三方よしから六方よしへ
近江商人が説いた「三方よし」
「三方よし」は、売り手・買い手・世間すべてにとって良い結果をもたらす商売を目指す考え方で、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三つを指します。江戸時代から続くこの哲学は、単に売り手と買い手が満足するだけでなく、社会全体に貢献できる商売を理想としました。
SDGsの理念「誰一人取り残さない」とも重なり、現代のビジネスにも深く影響を与えています。
「三方よし」から「六方よし」へ
現代のビジネス環境では、三方よしの枠を超えた「六方よし」の視点が求められています。「六方よし」とは、売り手・買い手・世間に加えて、作り手・地球・未来の合わせて6要素で構成されています。
- 売り手よし:働く人々が満足し、働きがいを感じる環境。
- 買い手よし:顧客が社会価値を実感できる商品・サービス提供。
- 世間よし:地域社会やコミュニティへの還元。
- 作り手よし:生産者やサプライチェーンで働く人々の満足度向上。
- 地球よし:環境負荷を減らし、自然との共生を目指す。
- 未来よし:次世代がより良い社会を築ける基盤づくり。
この六方よしは、企業が多様なステークホルダー(利害関係者)に対し責任を果たしつつ、持続可能な価値を創出するための枠組みです。株主至上主義から、マルチステークホルダー主義への転換を反映したアプローチでもあります。
売り手よし~社員の幸福が企業の競争力を高める~
「売り手よし」は、企業や組織が従業員に働きがいを提供し、健全で魅力的な職場環境を作ることを指します。企業の持続可能性は、従業員の満足度やエンゲージメントに直結します。特に若手世代は「働きがい」や「社会的な意義」を求めており、これに応える企業は競争優位性を持つことができます。
売り手視点でのSDGsトレンド
- 多様性・公平性・包括性(DE&I)の推進:女性や障がい者、外国籍社員など、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が活躍できる職場を作ることの価値が高まっています(一方、政治的に分断が起きやすいテーマでもあるため、時には慎重さも必要といえます)。
例)多国籍チームを活用して多様な市場のニーズに対応。 - ウェルビーイング重視の働き方:働きやすい制度(フレックスタイム、リモートワーク)や福利厚生の充実が求められています。
例)週休3日制やメンタルヘルスサポートを導入する企業の増加。 - パーパス経営:社会的な使命を掲げ、企業活動の中心に据えることで、従業員のモチベーションを向上する重要性が増してきました。
例)「気候変動対策に貢献する」という明確な目標を掲げた企業が採用ブランドを強化。
実践のヒント
- 定期的な従業員満足度調査を実施し、組織文化や働き方に反映させる。
- 社員のキャリア支援プログラムや研修を通じて、成長の機会を提供。
- フィードバック文化を醸成し、社員が自分の意見を表現しやすい環境を作る。
働く環境を改善することは、目標8「働きがいも経済成長も」に直結する取り組みです。
買い手よし~顧客の選択が社会を変える~
「買い手よし」とは、顧客が満足するだけでなく、購入を通じて社会や環境に良い影響を与えることを可能にすることです。消費者の購買行動は、社会や環境への意識が高まるにつれて変化しており、企業はこれに応える商品・サービスを提供する必要があります。
買い手視点でのSDGsトレンド
- エシカル消費の拡大:消費者は商品の背景や製造プロセス(例:フェアトレード、環境負荷)を重視する傾向が強まっています。
例)コーヒーやチョコレートのフェアトレード認証商品の市場拡大。 - カスタマージャーニーの多様化:デジタル体験を重視した消費行動が進展。特にeコマースやサブスクリプションモデルで、環境配慮型商品が選ばれる傾向。
例)カーボンニュートラルな配送オプションを提供するオンラインストア。 - アウトサイドインの価値創造:顧客視点から社会課題を解決する商品・サービス開発が求められています。
例)プラスチック削減に取り組む洗剤の詰め替えパックや再利用可能な容器。
実践のヒント
- 商品やサービスの透明性を確保し、サステナブルな価値を明確に伝える。
- 顧客のフィードバックを商品開発に活用し、よりニーズに合った価値を提供。
- 購入後の行動(リサイクルや再利用)を促進する仕組みを導入。
買い手の視点を尊重し、サステナブルな消費行動を促進することで、目標12「つくる責任、つかう責任」も達成する道が開けます。
世間よし~地域社会と共に成長する~
「世間」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか?
かつては地域社会や地元住民を指すことが多かった「世間」ですが、現在ではデジタル技術の普及によって広義化しています。オンラインコミュニティやグローバルな視点も「世間」の一部です。グローバルな視野でローカルにどう根付くのかを考えることが大切です。
世間視点でのSDGsトレンド
- 地域活性化を支える事業:地元の課題をビジネスチャンスと捉え、地域のニーズに応える製品・サービスを提供。
例)地方特産品を活用したブランド化や観光資源の活性化。 - デジタル田園都市構想とSociety5.0:地方のデジタル化を進め、効率的な行政サービスやスマートシティを実現。
例)地方自治体と連携したデジタルプラットフォームの構築。 - コミュニティエンゲージメント:地域住民や企業が共同で取り組むプロジェクト(例:ゴミ削減、地域イベント)。
例)地域の森林保全活動に参加し、環境教育プログラムを提供する企業。
実践のヒント
- 地域の課題をリサーチし、自社の事業と関連付けて解決策を提案。
- 地元企業や住民とのパートナーシップを強化し、共創の場を作る。
- 地域特有の文化や資源を活用し、新しい市場価値を生み出す。
地域との連携は、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に密接に関わっており、企業や個人が地域社会にどう貢献できるかを考えることで、新たな価値を創造するきっかけになります。
まとめ
売り手、買い手、世間の視点を取り入れたビジネスは、単なる利益追求を超えた価値創造を可能にします。「六方よし」の実践により、私たちは社会全体に利益をもたらし、未来に向けた確かな一歩を踏み出すことができます。
次回の記事では、残りの3要素である「作り手」「地球」「未来」の視点に焦点を当て、さらに深掘りしていきます。あなた自身の「よし」を考え、行動に移す準備を始めてみませんか?
名古屋大学大学院修了後、外資系電機メーカーでグローバル営業に従事し、アジア・アフリカでの日系企業の進出支援に従事。現在は合同会社エネスフィア代表および株式会社BrightのCSOとして、SDGsビジネスマスターや脱炭素アドバイザーなどの資格を活かし100社以上の中小企業支援に実績。さらに、BSIジャパン認定アソシエイト・コンサルタントおよびB Corp認証取得支援コンサルタントとしても活躍中。