はじめに
「お肉は週に何回食べてる?」
そんな何気ない問いが、実は私たちの未来に大きなヒントをくれます。
ここ数年、世界の食卓で注目を集めつつある「プラネタリーヘルスダイエット」をご存知でしょうか?
これは、地球の持続可能性と私たち自身の健康を同時に守る食生活の新常識。つまり、体にも環境にも優しい“未来のためのごはん”です。
プラネタリーヘルスダイエットとは?
2019年、FAO(国連食糧農業機関)とWHOが発表したこの食習慣(*1)は、ロックフェラー財団と医学誌『The Lancet』の共同研究に基づいています。
プラネタリーヘルスダイエットは、科学的根拠に基づいた、持続可能かつ健康的な食生活モデル。
目指すのは、2050年までに100億人が、健康で環境に配慮した食事をとる未来です。
その鍵は、肉の摂取量を少し減らし、野菜や果物、豆類、ナッツなどの植物性食品を主軸にすること。
模範的な構成は「プラネタリーヘルスプレート」として定義されています。
具体的には、体積比で約半分を野菜と果物で構成し、残りの半分をカロリー比で、全粒穀物、植物性たんぱく質、不飽和植物油、(任意で)少量の動物性たんぱく質で構成するというものです。
引用:食事と地球と健康/イート・ランセット委員会, 農林水産省
ポイントは、「ちょっと減らして、ちょっと増やす」だけ。
たとえば、牛肉を週に2回に減らし、そのぶん豆腐や納豆、野菜を多めにするだけでもOK。小さな工夫が、地球の未来を変える第一歩になります。
何がどう変わるの? ~人と地球へのインパクト~
現代のフードシステムは、地球環境に大きな負荷をかける構造になっています。
一人ひとりの意識が少し変わるだけでも、持続可能な未来への大きな一歩に。
また、プラネタリーヘルスダイエットに沿った食生活に移行することで、年間1,110万人(成人死亡者数の19〜24%)の命が救われる可能性があるとも推定されています(*1)。
地球へのインパクト
- 温室効果ガスの削減
食に関わる排出量は世界全体の約25%を占め、その多くが畜産業由来(*2)。 - 水資源の保全
食に関わる水の使用は全体の約70%。肉1kgの生産には数千リットルの水が必要(*3)。 - 生物多様性の保護
地球上の食用植物5万種のうち、米・トウモロコシ・小麦で世界の消費カロリーの75%を占めている(*4)。
森林伐採や単一作物化の抑制は、地球全体の生態系にポジティブな影響をもたらします。
人へのインパクト
- 生活習慣病の予防(糖尿病・高血圧・肥満リスクの低減)
- 健康寿命の延伸(バランスのとれた栄養摂取)
- 食費の節約(肉中心の食事よりもコストパフォーマンスが良い)
でも本当にできるの? ~現実的な壁と2.0の視点~
「理想はわかるけど、そんな急に変われないよ…」
そんな声も当然あります。加えて、
「食の楽しみが減るのでは?」
「畜産に携わる人の暮らしはどうなるの?」
「コスト的に余裕のない家庭はどうすれば?」
というような指摘も多く見られます。
実際、現在は「プラネタリーヘルスダイエット2.0」の検討も進行中。
地域性、文化、宗教、所得格差などを考慮した“より現実的な提案”が模索されています。
ただし、大切なのは、「正解を一つにしないこと」と「自分なりのやり方で一歩ずつ」という柔軟なスタンスです。
まずは立ち止まって、次の2つを自分に問いかけてみましょう。
- これからの社会を考える上で、食生活の何を変える必要がありますか?
- 私たちと地球を守るために、どのようなトレードオフを受け入れますか?
今日から始める、私たちにできること
①自分の食生活をちょっと見直してみる
「昨日の夜ご飯、野菜あったっけ?」そんな簡単な振り返りからでOK。
- お肉をちょっと減らして、野菜や豆を増やすだけ!
- お肉の代わりに魚を積極的に食べる
- 地球にもお財布にも優しい腹八分目
②食品ロスを減らす意識を持つ
毎日、茶碗1杯分の食べ物が日本では捨てられていると言われます。買いすぎず、使い切る意識だけでも地球にやさしい。
- 食べきれる量だけ買う
- 食べ物に感謝して食べ残ししない!
- 持ち帰り用パックを用意しているレストランに行く
③「日本人の伝統的な食文化」和食を楽しむ
野菜中心で、豆腐・海藻・魚など多様な食材を取り入れた和食は、2013年にユネスコ無形文化遺産にも登録されました。実は、和食は、プラネタリーヘルスダイエットの理想に最も近い食文化の一つとも言われています。
- 日々の食事を和食で楽しむ
- 地産地消の食材、メニューを意識する
④食事で出るごみを減らす
ちょっとしたゴミでも毎日三回の積み重ねです。少し習慣を変えるだけでも大きな力になります。
- マイボトル、マイカップ、マイ箸などを持参する
- アップサイクル商品をチェックする
⑤家族や仲間と“食の未来”について話してみる
食の話題は、誰とでも自然につながれる最強のコミュニケーションです。
ライフワークとしての「食」を考える
食べることは、生きること。
そして、地域の飲食店、農家、観光業などと深く結びつく“コミュニティビジネス”の核でもあります。
株式会社Brightが目指す「場所や時間にとらわれず自由に挑戦できる社会」の実現には、一人ひとりの食に対する選択の変化も欠かせません。
プラネタリーヘルスダイエットは、地域資源を活かした循環型経済やインバウンド対応にもつながる、新しい食の未来図。
今こそ、自分と地球にやさしい“食のライフワーク”を始めてみませんか?
*1 イート・ランセット委員会の報告書(要約版)
https://eatforum.org/content/uploads/2024/02/EAT-Lancet_Commission_Summary_Report_Japanese.pdf
*2 農林水産省「食料消費の持続可能性」
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kaigi/attach/pdf/r02_03-2.pdf
*3 WWFジャパン「水リスクと繊維産業」
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20230614_sustainable01.pdf
*4 Bioversity International (2020)
https://alliancebioversityciat.org/2020-annual-report

名古屋大学大学院修了後、外資系電機メーカーでグローバル営業に従事し、アジア・アフリカでの日系企業の進出支援に従事。現在は合同会社エネスフィア代表および株式会社BrightのCSOとして、SDGsビジネスマスターや脱炭素アドバイザーなどの資格を活かし100社以上の中小企業支援に実績。さらに、BSIジャパン認定アソシエイト・コンサルタントおよびB Corp認証取得支援コンサルタントとしても活躍中。
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